「価値観の相違」は離婚原因になるか
2025/09/05
「価値観の相違」を離婚原因と考えることについては、事例1の「性格の不一致」と同じになりますので、53ページの解説を参照してください。協議離婚の場合は、価値観の相違のみでは相手方がなかなか納得してくれないでしょう。調停離婚や裁判離婚の場合では、修復しがたいほどに夫婦関係が破綻していることを証明すれば、認められることもあります。ただし、お互いの努力で回復が可能と判断された場合には離婚が認められない場合があります。
夫婦の財産は誰のもの?【家族構成】夫:会社員 58歳妻:専業主婦 52歳長女:会社員 24歳次女:大学生 21歳【キーワード】専業主婦、価値観の相違、定年後、別居、年金、財産分与
2025/09/05
相談者の佳代子さんは、幼いころに両親が離婚し、だいぶさみしい思いをしたことから、「自分は絶対に離婚はしない」と決め込んでいました。結婚は27歳のとき。女手一つで育ててくれた母親からは、大卒で堅実な会社に勤めていること、まじめで浮気しそうにない人、と結婚相手の条件を挙げられたそうです。夫とは、仲良しの友人の紹介で知り合いました。「夫は一流私大を卒業して中堅のゼネコンに就職し、同期のトップを走る出世頭でした。彼の近くで働いていた友人からも仕事ぶりは几帳面だと聞いていましたし、私から食事やデートに誘ったりして積極的にアプローチしたんです」半年ほどの付き合いの後、めでたく結婚に至ります。ところが、結婚生活を始めた当初から、夫には違和感を覚えたといいます。ちょっと口答えをしようものなら、「誰に対してそんな物言いをしるんだ」「おまえはおとなしくいわれたことをすればいい」「誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ」夫の口をついて出てくるのはいつもこうした言葉でした。佳代子さんはそのうちに反論する気力さえも失っていきました。財布もすべて夫が握っていたとのこと。「夫が毎月いくら給料をもらっているか知りませんでした。私は生活費として毎月3万円渡されるだけで、子どもが生まれてからは服やおむつ、ミルクにかかるお金を何とかひねり出していました。自分のおしゃれにまわすお金などまったくなくて、お化粧もできなかったほどです」佳代子さんは一切浪費をしていないのに、それでも夫は家庭生活にお金がかかることを理解できなかったそうです。3万円の生活費をギリギリやりくりしているにもかかわらず、何に使ったのか細かく聞いてきたといいます。「俺の金をどんどん使いやがって、という感覚だったのでしょうね」「どうしてこんなにがまんしなければいけないの?」と思いながらも、そんなことを口に出そうものなら、思い切り言い返されるのは目に見えていました。離婚はしない――。自分の中の決め事が余計に佳代子さんを縛っていたのです。二人目の子どもである次女が小学校に上がったとき、佳代子さんはひそかに就職先を探し始めました。経済的な理由はもちろんでしたが、もともと社交的な佳代子さん、自分自身のこれからの人生を考えたときに、もっと外に出て多くの人とつながり、もっと広い視野を得たいとの思いも強くもっていたのです。ようやく就職先が決まり、意を決してそのことを夫に話すと、「何を勝手なことしてるんだ。おまえは家にいて、家庭を守るのが仕事。子どもたちに何かあったらどうするつもりだ」まったく取り合おうとしてくれず、引き下がるしかありませんでした。夫はとにかく仕事一筋。家のことは一切佳代子さんにまかせっきりで、家では自分の書斎に入ったまま出てこようともしません。日曜日になると接待ゴルフ三昧で、二人の子どもたちとの会話もほとんどなかったそうです。仕事以外の唯一の関心事は、株や不動産をはじめとする金融資産への投資でした。佳代子さんはそうした話にうとく、共通の話題がないために、夫との会話もほとんどすることがなかったといいます。長女がもうすぐ大学を卒業、というころ、さらに佳代子さんを悩ませる問題が出てきました。それは夫の両親のこと。義父母は二人で暮らしていましたが、ともに80歳を超え、将来の生活の不安を佳代子さんに打ち明け始めたのです。夫は長男。何かあれば長男の嫁として、面倒を見なければならなくなることは目に見えていました。ところが、肝心の夫がどこでも頼りになりません。「正月に夫の実家に帰っても夫はフスンとしても何もしゃべりません。いつも両親の相手をするのは私の役目でした。もし、病気やケガで介護をすることになったらと考えるとゾッとしました」義父母の今後のことで一度、夫に相談をもちかけようとしたときも、「今からそんなこと考えたってしょうがない。何か起こったときに考えればいいんだ」の一点張り。佳代子さんは常に板ばさみの状態で、そのことを考えると逃げ出したくなるほど不安だったといいます。本来は、夫が中心となって考えていかなければならないことなのに、問題を先送りするばかり。「もしものことがあって、私が介護に専念することになったら、私の人生はいったい誰のためにあった、といえるのだろう……」そう考えると、居ても立ってもいられず、いよいよ「離婚」の二文字が頭をよぎるようになってきました。精神的に追い込まれた佳代子さんはある日、心の中で張り詰めていた1本の糸が切れたように、夫との決別を意識し始めます。自分の悩みや苦しみを理解せず、また、気づいていたとしてもなんら具体的な行動を起こそうとしない夫との生活に、「いいかげんうんざりした」のです。夫は58歳。会社はいったん退職し、子会社の役員を務めています。その任期もあと2年。それまで自分を召使いのように使ってきた夫が常に家にいることになると考えると、どうしても耐えられませんでした。そしていよいよ、夫との生活に見切りをつけたのです。そこで、思い切って離婚を切り出してみました。ところが、夫の返事は思っていた以上に、あっさりしたものでした。取り乱すこともなく、「それなら好きにしたらいい、その代わりこの家には戻ってくるな」という答えでした。佳代子さんは、「内心は離婚したくなくても、夫のプライドが許さなかったのでしょう。長年さげすんできた私に対して、くやしい気持ちをあらわにすることさえできないなのです」娘たちに事情を説明し、いったんは長女夫婦の家へ転がり込んだ佳代子さん。佳代子さん名義の預貯金はほとんどなく、働きに出なければいけないことなどを考えると不安でした。そして、あるとき離婚経験のある友人に相談してみたところ、離婚時の財産分与には2分の1ルールというのがあるという話を聞きました。夫婦の共有財産についてはそれぞれの寄与割合を同等と考え、きっかり半分に分けるという決まりです。その話を聞いて、佳代子さんは夫の財産を徹底的に調べ上げよう、と決めました。書斎の引き出しに入っていた預貯金通帳や株の取引報告書を取り出し、おおよその預貯金と株の時価を洗い出したのです。自宅が今ならいくらくらいで売れるかも不動産業者に見積もってもらいました。預貯金、有価証券、自動車、不動産などを合わせておおよそ6000万円の資産になることがわかりました。つまり佳代子さんはこのうちの半分、おおよそ3000万円を受け取れることになります。これに結婚期間中に積み立てていた年金についても半分受け取る資格があります。満を持して夫を呼び出した佳代子さんが財産分与のことについて切り出したとたん、夫の表情がみるみるうちに変わっていくのがわかりました。財産分与に2分の1ルールがあることなどまったく知らなかったのでしょう。「俺はどうしても別れたいと思っているわけじゃない。定年まであと2年。その後にでもゆっくり旅行に行こう。もう一度やり直せるんじゃないか」佳代子さんはあまりの豹変ぶりに驚くとともに、とまどいました。心の中では離婚を決めていたのですから。「自分が働いて得た給料なのだから、すべて自分のお金になると思い込んでいたようなのです。それが耐えられなかったのでしょう」もちろん佳代子さんの離婚の決意が揺らぐことはありません。夫はといえば、その日以来、「離婚はしない」というばかり。一日でも早く自分の人生を取り戻したいと考えている佳代子さんは、早期の決着を望んでいます。
「配偶者の親族との不和」だといえるか
2025/09/05
性格の不一致と同様、配偶者の親族との不和だけでは、離婚原因としては認められません。しかし、相手方(配偶者)が不和の状況を調整しようとせず放置したり、親族に同調するなどし、夫婦関係が具体的に修復不可能となった場合には、離婚の原因として認められたことがあります。
事例に対するコメント
2025/09/05
優月さんの夫は細かい性格で、優月さんはおおざっぱな性格と性格の不一致がありますが、これだけでは裁判で離婚が認められることはまずありません。また、別居をしているわけでもありませんので、次に、義父母との関係を見ていくことにしましょう。
何が証拠となるか・証拠の収集方法
2025/09/05
後々証拠として役に立つ可能性がありますので、日々の夫婦生活がわかるような記録を残しておきます。たとえば、相手方の行動を日記やメモで記録(いつ飲みに・釣りに行った、帰宅時間などの記録)したり、会話を録音しておくとよいでしょう。
「性格の不一致」は離婚原因になるか
2025/09/05
性格の不一致や価値観の相違は、離婚の申立ての理由として多いものです。しかし、性格の不一致や価値観の相違は、程度は違えども、どの夫婦にもあることですので、調停離婚や裁判離婚においては、単に性格が合わないというだけでは、離婚の重大な原因として認められることはまずありません。また、話合いによる協議離婚の場合においても、相手方が離婚を望まず、関係修復のために努力している場合は、性格の不一致の理由だけでは離婚を納得してもらえないと思います。裁判離婚において、離婚原因として認められるためには、「修復しがたいほどに夫婦関係が破綻している」ことを証明しなければなりません。性格の不一致に加えて、不貞や悪意の遺棄などのほかの離婚原因があれば、別居期間の長さは関係なく認められることがあります(ただし、有責配偶者からの離婚請求の場合は除く)。しかし、性格の不一致に加えてこのような離婚原因がない場合には、長期間別居していることなど、具体的に夫婦関係の回復の見込みがないと判断されるに足りるような事実が必要となります。従来は、5年から10年の別居期間で、「長期間の別居により婚姻生活が破綻している」と考えられる傾向にありましたが、近年では、3年程度の別居期間の事案でも離婚を認めている場合もあります。ただし、お互いの努力で回復が可能と判断された場合には離婚が認められない場合があります。
事例1性格の不一致って何?
2025/09/05
【家族構成】夫:会社員 35歳妻:契約社員 31歳子ども:なし【キーワード】性格の不一致、価値観の相違、配偶者の親族との不和、アレルギー
離婚に向けた書類・証拠集めチェックリスト
2025/09/05
離婚に向けて書類や証拠集めをするためには、あなたの現状を把握することが大切です。家族について、子どもについて、財産について、慰謝料についてなど、どのようにするかを調べる必要があります。相手方に関するものや共有財産は、別居前や離婚したい旨を伝える前のほうが調べやすいですので、早めに準備するのがよいでしょう。
別居するときに忘れずに持ち出しておくべきもの
2025/09/05
別居をする場合、自分の衣服などをまとめることは忘れないのですが、証拠などとともに、別居中の生活に必要となるものを忘れずに持ってる出ることが大切です。たとえば、自己名義の預貯金通帳と届出印鑑、キャッシュカードは、別居中の生活費を確保することや財産分与の際に必要となります。また、自己の健康保険証、年金証書(年金手帳)、パスポート、運転免許証は生活上必要となります。子どもを連れて別居する場合は、子どもの必要なものも忘れずに持って出ましょう。36〜38ページに離婚をするためにそろえておきたい書類などを表にしてありますが、状況によってはすべてそろえている時間がない方もいるかと思います。そのような場合は、以下の「最低限持って出たいもの」を用意してください。相手方の名義になっているものはコピーをしておくとよいでしょう。【最低限持っておきたいもの】①自己名義の預貯金通帳、届出印鑑、キャッシュカード②健康保険証、年金証書(年金手帳)③パスポート、運転免許証④不動産権利証⑤生命保険証券や損害保険証券⑥株券、債券などの証券類⑦生活費用に使っていた預貯金通帳(共有財産)⑧知人や子ども関係の連絡先⑨不貞・DVなどがあった場合はその証拠
証拠を持ち出すことを忘れずに
2025/09/05
夫婦で住んでいた家を出て別居をする場合には、証拠を持ち出すのを忘れないようにしましょう。別居後は、出て行ったほうは簡単には家に入れなくなり、証拠を取り出せなくなるからです。証拠とは、相手方の有責を証明するものだけではなく、現状の把握ができる書類なども含まれます。収入や共有財産がどれくらいあるのか、ローンはいくら残っているのかなどがわかる書類も立派な証拠となります。家を出てからこれらの証拠(書類等も含む)を集めるのは大変です。特に書類関係は、家を出る前に必ずコピーや写真を撮っておいてください。そして家を出る際は、それらを忘れずに持ち出します。もちろん、不貞・DVなどがあった場合はその証拠もです。意外と忘れがちなのが知人などの連絡先です。別居して住所が変わったことなどを連絡したり、いろいろ相談するために必要となります。調停などでは、相手方に証拠を出すようにいうことはできますが、争っている状況で相手方から証拠を提出してもらうことはむずかしいものです。たとえば、財産分与などでは、「これだけの財産がある」という証拠が必要となります。家にとどまった相手方がすべて隠さず提出してくれればいいのですが、もめているときにはなかなか提出してくれるものではありません。証拠は、時期やタイミングを逃さずに集め、保存し、忘れずに持っているようにしましょう。もし、別居前に何を持って出るのがよいのかがわからなかったり、証拠の収集などに悩んでしまう場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
証拠集めのチャンスを逃さない
2025/09/05
証拠を集めるチャンスはその場かぎりの場合もあります。たとえば、相手方が不倫を認める話をしたとしても、音声は自然に残るわけではありません。後になって「そんな話をしたこともない」と言葉をひるがえされたり、「不倫なんかしていない」とまでしらばっくれられることも考えられます。その場合、証拠がなければ、裁判所にはわからないことなので、不倫があった事実は認められにくくなります。こうした事態を避けるために、その場で会話を録音しておくことが重要です。録音以外にも、日記に書いておくことや友人や知人にメールなどを送っておき、それを証拠とする方法もあります。また、メールやLINEの文面は見つけたらすぐに写真などを撮って保存しておきます。消されてしまったり、どこかに埋没してわからなくなってしまうことがよくあるからです。DVでケガをした場合には、ケガをした直後に、写真を撮ったり、病院で診断書をもらうことをおすすめします。ケガが治ってしまうと証拠がなくなってしまうからです。また、写真を撮る際には、ケガと自分の顔などが一緒に写り込むようにしなければなりません。誰がケガをしたのかわからない写真では証拠にならないからです。さらに、写真を撮影する場合、撮影した日付がわかるように、たとえば、その日の新聞と一緒に撮るなどしておくとよいでしょう。このように、証拠を集めるチャンスは少ないことも多いので、時期やタイミングは逃さないようにしましょう。そして、保存するという意識を常にもつようにしてください。
事前の証拠集めが大事
2025/09/05
離婚をするには、大きく次の三つの方法があります。・夫婦の話合いで決める協議離婚・裁判所の調停で決める調停離婚・裁判所に判決を下してもらう裁判離婚調停離婚や裁判離婚をするうえでも証拠集めは重要です(離婚方法については後ほどくわしく解説します)。調停や裁判でも、裁判所での話合いで離婚を決めることができるため、相手方が事実を否定したりせず、円滑に調停や裁判上の和解が成立するのであれば、証拠がなくても特に問題はありません。しかし、調停や訴訟になるということは、夫婦の間に何らかの意見の食い違いや対立がそこにはあるわけで、スムーズに調停や和解が成立するとはかぎりません。たとえば、調停委員や裁判官の前で「私はDV(ドメスティック・バイオレンス=家庭内暴力)を受けています」と事実を突きつけたとしても、相手方が「いや、それは何かの間違いだ。そんなことはしていない」と否定するかもしれないからです。先にも述べましたが、裁判所は、証拠をもとに事実を認定します。そして、その事実があると主張する側がそれを証明しなければなりません。ですから、裁判所にその事実を認めてもらうためには、事実を裏付ける決定的証拠が必要となるのです。証拠があれば、調停委員や裁判官が相手方を説得してくれることも期待できるなど調停や和解交渉を有利に進めることもできます。このように、夫婦間で意見や考え方の違いがぶつかりそうなときは、裁判所に対して「このような証拠があるからこの事実は認められるべきである」と主張して有利に手続を進めることができるように、事前に証拠を収集しておくことがきわめて重要なのです。